回転木馬
今号のリレーコラム・回転木馬の全文
2007年12月17日
つぶしがきかない
大平 安夫(タクシー乗務員)
最近、「根拠のないプライド」という現在の若者の特性を表現する言葉を知った。どうもタレントの出版した本の中で使われた言葉であるらしい。今の若者はこの「根拠のないプライド」から定職に就かず、「ニート」という中途半端な立場にいるという。「自分捜し」という言葉もよく耳にする。
考えてみると、今の若者だけではなく、私自身もよく考えてみると、ある時期には職業を変えてふらふらしていた。若い頃である。
私が卒業した高校は進学校であった。私の高校では、母子家庭でラーメン屋を営む家では、当時は公務員試験も無理だろうと言われた。頭も無く、金も無い。コネも無ければ、美貌も無い。それでもなんとなく大学に行こうと思うところが、やっぱり「根拠のないプライド」なのだろう。東京の大学を目指して、東京の新聞屋に入る。新聞を配って新聞の奨学生制度を利用しようと思った。
いきなり、大都会に放り出されてからの私は、もう、見るモノ、聞くモノ、すべてが刺激的な大混乱の渦の中に巻き込まれた。道に迷った野良犬がスマップのコンサート会場で警備員に追い出されたようなもの。女に迷い、酒に迷い、迷うモノはいくらでもある大東京である。気がつけば、身体のあちこちに傷を負った野良犬になって、故郷の北海道に帰っていた。そして、働こうと決意をして社会の波に揉まれ、それでも「根拠のないプライド」が頭をもたげ、最後にはラーメン屋を営む。それでも、家庭を持ち、子供ができると、私は「自分捜し」に迷った。幸せとは何なのだろう? 家庭らしい家庭。当時の私は、お父さんが仕事から帰ってきて、テーブルで一緒に囲む一家団欒というモノを幸せな家庭と思っていた。
そして、その時から、「根拠のないプライド」を捨てた。自分が何となく一番ならずにおこうと思っていたタクシー運転手になり、ちょっとした腰掛けのつもりで入ったこの世界に、気がつけばもう30年が経ってしまったのである。
NHK総合のドキュメンタリー番組に出演が決まった時、東京から総合ディレクターのY氏がわざわざ私の家を訪れてあいさつに来た。久米宏氏の事務所に所属していたY氏はお笑い番組の担当を任され、迷い、独立したフリーのディレクターである。そのY氏が「この仕事はつぶしがきかない」と言っていた。「つぶしがきかない」とはつぶしてもう一度再利用できない事を言うのだろうと思う。
日本の社会だけは「つぶしがきく」ということを祈りながら、値上がりしたメーターをじっと見つめ、師走の街を走り、様々な事を思いながら、また私の「つぶしがきかない」新年が、タクシーの中から迎えようとしている。もうつぶすほどのモノが残ってもいないし……。
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