回転木馬
今号のリレーコラム・回転木馬の全文
2007年12月10日
「タクシー値上げ」の記事
岡野 行秀(東京大学名誉教授)
東京地区の運賃引き上げが認可されたが、これについての2つの囲み記事が目に留まった。1つは10月10日付『日本経済新聞』の「大機小機」で、もう1つは10月25日付『朝日新聞』の「経済気象台」である。両者の分析・結論の差異が面白かった。
「大機小機」は言う。政府は値上げの許可理由に燃料費高騰に伴うコスト上昇や運転手の待遇改善を挙げているが、待遇改善による「格差是正」が旗印にされ許可せざるを得なくなったとはいえ、待遇改善は安全のためにも必要だろうが、「格差是正」が高じて経済原則まで曲げていいわけはない。価格は需給で決まるもので、供給過多で売れない製品は値上げしても浸透しない。規制緩和の失敗が供給過剰を招いたとの指摘は見当違いで、市場の飽和を横目に台数増や新規参入に踏み入った以上、経営者には競争に勝ち抜く覚悟が必要であり、問題は彼らの自由化精神の不徹底にあると主張する。
「経済気象台」は、国交省の値上げ許可の理由では「タクシー乗務員の所得確保、底上げ」が強調されているが、値上げの本当の理由は、コスト削減努力で吸収できない段階まで来ている燃料費の高騰ではないかと指摘する。ただし、燃料費が上がったので値上げと言うと、下がったら今度は値下げしろと言われるし、そもそも企業努力が不十分だと厳しい注文を突きつけられるので、世論の理解を得やすい「格差問題」「ワーキングプア問題」にすり替えたのだと言う。
「大機小機」の議論と違うのは、乗務員の低所得の原因が規制緩和によるタクシー台数の増加であると認めている点だ。その上で、規制緩和を進めてタクシーの台数を増やせば、競争によりサービスは向上し料金も安くなる、とはやし立てた一部の経済学者たちが、今回の値上げに沈黙しているのは国交省以上に無責任ではないかと言う。
2つの議論の違いがなかなか面白い。前者は市場原理に従えと主張し、後者は値上げの真の理由は燃料高騰にあると言う。ただ、両者とも「格差問題」解決という値上げ理由は承認しない。
一部の経済学者の中に私が含まれているかどうかわからないが、規制緩和の実施に関係があった私としては、後者の批判に答えなければなるまい。私は競争によってサービスが多様化(サービス向上の一種)し、料金体系も多様化するだろうと言ったが、料金も安くなるとは一度も言っていない。規制緩和によって増・減車が臨機応変にできるので、減車する冷静な合理主義事業者が出現すると思ったくらいで、運賃は市場をみて事業者が自由に上げ下げを決めれば良いと考えていたのである。運賃については現在でも私の考えは変わらない。
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