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2007年11月15日

値上げ

大平 安夫(タクシー乗務員)

 夜中に、突然目が覚めて眠れないことがある。

 私は法人のタクシードライバーとして1日いっぱい働き、次の日休むという隔日勤務の不規則な生活をしてもうかれこれ30年ほどになる。その報いなのだろうか? 眠れなくなるといろいろなことを考える。そのまま起きてこの原稿を書いた。人を運んで走る仕事に携わりながら、その時代の景色とともにさまざまな人間の流れを見てきたような気がする。

 戦後まもなくして生まれた私は、日本の復興とともにモノも食べ物もない時代を少しは経験した。思い返してみると、たくさんのモノと食が流通している現在までには、人の心も移ろいできたようだ。緊急の時、電話が市民にそんなにない時代には、家族や親戚の悲報はほとんど電報だった。だから、電報と聞くと誰かが亡くなったのではないかと思うほどである。しかし、電話が普及し始めると電話のない家にわざわざ、「○○さん、電話ですよ」と、連絡してくれたものである。その時代には緊急には電話のある家の電話番号を使わせてもらうことが親密な交流になっていた。今では考えられない時代である。市民が裕福にモノを取得していく過程で失っていったものもあるのだろう。その中でのモノの値上げは資本主義が発展する過程ではやむを得ないことなのだろうが……。

 タクシー運賃の値上げが東京で始まった。札幌でも1社を残して全社が運賃値上げの申請を終えている。審査が通れば年内にも値上げになる。しかし、いつもタクシー運転手にとっては喜ぶべき結果には終わっていない。

 ある運転手は「この仕事は社会では認められていない。子どもが友達に自分の父親の職業を言いたがらないし、隠すんだよ。世の中ではタクシー運転手が最低の職業だってことが当然のことになっている。だからタクシー運転手には虚勢を張る人間が多いんだ。今の時代は、人が給料としてもらってくる金で評価される。安い金で働く人間は、人間としても劣るんだという思考が蔓延してる。お客にもそれが浸透してるから、見下したモノの言い方をするお客がたくさんいるんだ。それがトラブルの元にもなっている。この仕事は、表では日常的に身近な職業だが、裏では卑下された職業なんだよ」と吐き捨てるように言った。

 昔、日本が石炭から石油に移行し、破竹の勢いで突き進んだ時代には汚れた仕事をさげすむ風潮があった。「勉強しないと、あんな職業しかつけないんだよ」と子どもに愚劣な指さしをした母親たちがいた。学歴主義を通して、社会の裏では人の差別化が蔓延していた。まだ、車が市民には高嶺の花だった時代である。

 この運賃の値上げが、タクシー運転手の音を上げることにならないことを切に祈るモノである。

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