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2007年11月8日

「再規制」をめぐる議論

岡野 行秀(東京大学名誉教授)

 全乗連の「再規制」要請が話題になって以来、「再規制」をめぐって学者がさまざまな見解を述べている。

 私は、再規制不要論者である。タクシー事業者の便益(利益)だけでなく利用者の便益を含めた国民にとっての便益(社会的便益)をできるだけ大きくするには、市場原理(競争)に委ねる場合と行政の規制に委ねる場合とがあり得る。この2者を比較した時、どちらにもそれぞれ長所・短所がある。すなわち、市場には「市場の失敗」があるが、規制にも「規制の失敗」がある。ただ、私は、現実の世界では市場原理に任せるのがもっともマイナスが小さいと考える。行政による規制が最善であるケースがあるとすれば、全知全能の神が行政を行う場合である。全知全能の神は、すべての情報を持っており、何かある具体的な規制(政策)を実施する時の影響を正確に予知する力があり、かつ、まったく自分の利害を考えないで常に社会の便益を念頭に置いている。行政を担当する人々が全知全能の神と同じではなくても、神に近いのなら、私は規制に依存することを否定しない。

 私が「再規制」賛成派あるいは「市場原理否定派」の学者の見解に「なるほどそうか」と思ったことがないのは、彼等は「市場原理」のマイナス面を指摘するだけで、「規制」については具体的に何をどうするかを示していないからである。また、タクシーの適正台数については、適正台数を割り出せるプロを育成せよとか、適正台数を決める第三者による機関を作れとか、具体的に、例えば、実車率が55%を超えたら「増車OK」、45%を割ったら「一律減車実施」というルールを決めよと主張する。実車率を基準にするという考え方は昔からあるが、9月13日付の本欄で私が指摘したように、最適な実車率は運賃体系に依存するので事前に実車率何%が適切だとは言えないのである。タクシー事業者から見れば、運賃水準が高ければ実車率が低くても運賃収入は十分大きくなるから、運送する乗客が少なくても痛痒を感じないが、利用者は利用する機会が少なく彼等の便益は小さい。逆に、運賃が安めであれば運転手は実車率を高くして運賃収入を増加させようとするので、利用者の利用する機会が増えて便益が大きくなる。つまり、実車率だけを基準にした規制は、社会的便益の評価について欠陥基準になり得るのである。

 適正基準を割り出すプロを育成せよなどという提案はナンセンスだ。情報と基準が充たすべき条件をきちんと示せば、学生でも計算できるだろう。

 「再規制」問題はまだしばらく議論されるだろう。私は、事業者の利益を無視するつもりはないが、利用者の利益と、さらにより広く社会の便益を考えるべきであると思う。

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