回転木馬
今号のリレーコラム・回転木馬の全文
2007年10月1日
『朝日』の運賃自由化論
岡野 行秀(東京大学名誉教授)
9月12日付『朝日新聞』に「タクシー運賃 思い切って自由化したら」という見出しの社説が載った。私は、一瞬、わが眼を疑った。『朝日新聞』の論説が自由化を主張することはあり得ないというのが私の認識だったからだ。
記事を読んだ感想は、「おおむね妥当」である。私は、運政審のメンバーとして運賃自由化論者だった。当時から、事業者、労組だけでなく、消費者代表までもが、それぞれの理由は異なったが、自由化には反対だった。私は、まず、需給調整を廃止する以上、当時の物価安定政策会議の介入をやめるとともに、運輸省 (今日の国土交通省)の認可もやめるべきだと考えていた。なぜなら、内閣府の審査、閣僚会議の了承は、政治情勢によっては運賃改定を不当に抑える可能性があるので望ましくないし、国交省の認可は行政指導による運賃カルテルになりかねないからだ。もっとも、このカルテルは業界の狙いではなかったか。
さて、「社説」は次のように主張する。東京のタクシーは、02年の規制緩和以来増車が続き、95年から07年3月にかけ28%、7000台増加、一方、運転手の平均年収は約23%、120万円強も減った。業界側は、タクシー労働者と他産業の労働者を比較すると、賃金は266万円少ないうえ、平均労働時間は年300時間長く、良質な労働力の確保もおぼつかないから運賃引き上げが必要だと言うが、労働条件の悪化の原因は経営側にある。増車自由化で各社が増車した結果、1台あたりの売上が落ちて運転手は減少分を長時間運転で補おうとする。この繰り返しが現状を招いているのだから、労働条件の改善には、長時間運転の抑制が必要で、長時間運転させれば賃金を大幅に上げざるを得なくさせるような賃金の仕組みを考えるべきだ。要は、経営側が安易に台数を増やし過ぎたツケを運転手に負わせないようにする。いい運転手を確保するため、各社に労働条件の良さを競わせる工夫も欠かせない。そのうえで運賃は思い切って自由化したらどうか。
『朝日新聞』の主張は、一応、もっともな主張であるが、事実関係について疑問が残る。運転手の年収が低下した理由は過大な増車だけではない。より大きな理由は、産業界の大規模リストラで失業者が増えて労働需給が極度に緩んだ結果、労働条件が悪くても運転手が確保できたことだ。景気の回復とともに就業機会が増えれば、劣悪な労働条件のタクシー業から出ていく労働者が急増したのは当然で、労働者を確保するには労働条件を良くするほかない。それには運賃引き上げが必要だが、認可が下りない。もし自由化されていたら、値上げできたのではないか。もっとも、値上げが業界の収入増をもたらすかどうかは別問題であるが。
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