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2007年9月20日

タクシーというキーワード

大平 安夫(タクシー乗務員)

 ある日、ふとした切っ掛けで本を出した。それが話題を呼んで道内の新聞や放送局が取り上げてくれ、一躍タクシー運転手の「走るヒーロー?」……なんてものではないが、ちょっとした話題になった。

 ある日、さらに驚いたことにNHKから『ドキュメンタリー72時間』という番組の出演依頼が舞い込んできた。すったもんだの末に、ようやく、撮り終えて放映。さまざまな人からのメールや電話や問い合わせがあり、そんな対応も1年ほどで終わったころ、ある1本のメールがパソコンに飛び込んできた。それが、なっ! なんとサプライズ! 昔なら「あっと驚く為五郎!」(これで私の歳がばれるというもの)。ネット検索から、(タクシーなどの)キーワードで、私のホームページにたどり着いたという男……。

 そのパソコンの液晶画面に並んだ文字の列は、まだ続くのかと思うほどの長い文章。それも、遠いアメリカは、ニューヨークから。読み進むにつけ切々と訴えてくるその内容は、アメリカで放送されたNHKの『ドキュメンタリー72時間』の番組。アメリカの『TV・JAPAN』というチャンネルで放送されたものを観たらしいのだ。ニューヨークのその男性(40代)は、懐かしい日本の札幌の景色、そして、くしくも、自分の父が札幌のタクシー運転手だったという奇遇の出会いに、その画面に釘付けになったという。彼の父は20年前に近隣の住民とのいさかいから、刃物沙汰による殺傷事件で非業の死をとげていた。

 その時、すでにニューヨークにいた彼は、苦労して育ててくれた父でありながら、タクシー運転手という職業の父に対して、わだかまりを抱いていた。しかし、彼は、その番組の第一次安倍内閣の組閣前日から3日間に働くタクシー運転手を追った72時間のドキュメンタリードラマを観ているうちに、父とのわだかまりが溶けていったのだという。涙が流れたと言っていた。

 彼、田中という人はニューヨークで24年間生きてきた。今、ようやく食べていけると自負する。そのドキュメンタリードラマで人が生きていくことの意味を強く感じたようだ。

 田中氏の人生は、波乱に満ちている。現在は、東京本社の米国現地法人の会社に勤務し日本の書籍、雑誌、新聞など国際ビジネスやその宅配便の業務に携わっている。それでいて、もう1つの顔をもつ。ロックバンドのベース奏者という顔。その田中氏の「カオス」というロックバンドのホームページアドレスは、http://kaosfromorder.com。

 遠いニューヨークから私とパソコンの画面でつながっている田中という人。父親のタクシーという職業から結ばれた1本のネットの道。タクシーというキーワードで今もロマンでつながっている。

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