回転木馬
今号のリレーコラム・回転木馬の全文
2007年8月27日
懲戒処分についての注意点
向井 蘭(弁護士)
乗務員が不祥事を起こしたとき、どう対処したらいいか頭を悩ませている方も多いと思われる。そこで、今回は、裁判官の感覚と一般社会のずれが顕著に表れる懲戒処分の有効性について述べたいと思う。
(1)消費者金融から給与を差し押さえられた乗務員、自己破産した場合。
「消費者金融から取り立ての電話がかかってくる従業員がいるが、どう対処したらいいか」と相談を受けることがある。消費者金融に多額の借金があり、返済が滞っていること、もしくは自己破産をしたことは、懲戒解雇の理由になるのだろうか。答えはノーである。懲戒解雇の理由にはならない。
まじめに勤務している限りは、借金があったとしても、ただちに企業秩序を乱したり、業務遂行を妨げるものではない。したがって、多額の借金を抱えていても、あるいは返済が遅れていても、自己破産をしても、それだけで懲戒や解雇になることはない。ただし、乗務員が職場の同僚から金を借りてトラブルになった場合は、懲戒処分をすることも可能である。
ただし、売上を着服するなど具体的に会社に損害を与えない限り、懲戒解雇することはできない。
(2)私生活で痴漢や児童買春などのわいせつ罪を犯した場合(執行猶予または罰金刑の場合)。
この場合、懲戒解雇はできるだろうか? 答えはノーである。
裁判官は、「私生活で間違ったことをしたかもしれないが、仕事上では何ら問題を犯していないのだから、解雇は酷すぎる」と考える。この点、タクシー事業者は、「うちは大切なお客さまを乗せている客商売だから、そのような性犯罪を犯した人間を乗務させるわけにはいかない。万が一何かが起こったら、どうするのか?」と反論すると思うが、裁判所は「『何か』がこれから起きる危険性は抽象的なものであり、抽象的な危険性をもとに懲戒し、乗務員の身分を剥奪するわけにはいかない」と考えるようである(ただし、裁判所も職務上犯罪を犯した場合はもちろん解雇を有効であると考える)。この結論に、何割の方が納得するだろうか?
(3)勤務時間外の酒気帯び運転場合。
この点については、裁判所は、タクシー乗務員という点を重視して、たとえ私生活でマイカーを運転して酒気帯び運転をしたとしても、タクシー会社の企業秩序を乱すものであるため、解雇を有効とすることが多い(ただし、全ての事案で解雇が有効になっているわけではない)。
現状の日本の労働判例の下では、裁判所は、懲戒解雇の有効性についてはきわめて厳しい態度で臨むため、訴訟になった場合、会社側が勝つことが難しい。トラブル防止のためにはあくまでも合意退職を目指していただきたい。
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